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大泉洋は何故だるま屋ウィリー事件を引き起こしたのか

投稿日: 2017年11月20日 19:37

1999年、北海道テレビの「水曜どうでしょう」の企画「72時間!原付東日本縦断ラリー」において、大泉氏が新潟県内の国道で発進しようとしたところ、乗っていたスーパーカブ50の操作を誤って前輪を上げてしまうというアクシデント(=だるま屋ウィリー事件)があったのだが、これが何故起こったかについて、背景を考えてみる。

だるま屋ウィリー事件全貌 – ニコニコ動画 (動画)
「72時間!原付東日本縦断ラリー」 水曜どうでしょうの企画 (日本国内) – Wikipedia

番組内でも理由について説明されており、まとめると以下の通りとなる。

  1. ギアはニュートラルのまま
  2. 工事現場の赤信号が青になる
  3. 大泉氏は1速に入っていると思い込み、スロットルを全開にする
  4. 実際はNだったので、空ぶかししてしまう
  5. これに慌てて右手はスロットルを開けたまま、左足のつま先でギアを上げた
  6. 高回転のままギアが入り、結果として前輪が浮いた

もちろんこの手順を踏むと前輪を上げることはできるのだが、個人的にカブに乗っていておやっと思った点が、大泉氏はなぜ道路工事の片側交互通行の信号待ちという短時間の停車でニュートラルに落としたのかということが気になった。

というのもカブシリーズの変速機構は、変速操作を要しても一般のマニュアル車とはが2つ異なる点があるためで、

  1. 自動遠心クラッチを搭載しており、ギアが入ったまま停車してもエンストしない点
    (→逆に、ギアを入れてエンジンの回転を上げるとクラッチが繋がり、前に進む)
  2. このため半クラッチという微妙な状態が、ライダーからすればスロットルだけで処理でき、通常左手レバーのクラッチレバーが存在しない点

が通常のマニュアル車とは異なる。つまり、ギアを入れたまま停車しても左手を握っておく必要がないのにもかかわらず、彼はNに落としたということになる(もちろんカブでもNで停車してもよいが)。

ここで、カブの変速操作について紹介する。このシールは、当方所有のカブのスピードメーター下に貼られているもの。

基本的には図の通りで、両足の土踏まずをステップに乗せ、左足のつま先を踏むとギアが上がり、かかとを踏むとギアが落ちる構造である。
細かく順を追って説明すると、どちらかで踏み込んだ瞬間にクラッチが切れ(このとき右手はスロットルを戻している)、踏み込んだのを戻したときにギアがつながり変わる仕組みとなっている。そのため、「カブはクラッチ操作が不要」としばしば言われることがあるが、左手の動きはなくても実際にはギアチェンジの瞬間に足で行っているので半分ウソとなる。

なお、郵便や新聞配達などでバイクから離れ停車する機会が多いとホンダが想定している一部のプロ向け機種を除いて、走行中は3速/4速からNに落ちない仕組みとなっており、仮に踏んでもクラッチが切れるだけである。もし3速/4速巡航の速度でNを経て1速まで落ちた場合、急激なエンジンブレーキが発生し事故や過回転による故障の原因になるため。

ところで、カブのシフトダウン操作については前述の通りかかとの側で踏むのだが、このとき通常走行の回転数だとエンジン回転を合わせないと、後輪がキュッとロックしたのちに下の段に落ちてしまう。このため、左足を踏み込んだ瞬間、右手でスロットルを煽って回転を上げてやり左足を戻すときれいにつながる(=ブリッピング)。私は3年で25,000km走行したのでできるが、乗り出したばかりのロケで走っている大泉氏にとっては難しいだろう。

ここで注目したい背景は、この企画で20年前の大泉氏は他の出演者に比べ原付含めバイクの乗車経験が少なかったことがある。どのよう説明を受けたかはわからないが、最初Nでエンジンかけギアを入れ123と変速、停車したくなったら3速のままブレーキを掛け停車したところでまたつま先を踏んでN、それを繰り返しさえすればとりあえずは走れ止まれる、ということ。

ここまで来た仮説としてこの事件が起こった背景は、大泉氏がシフトダウン操作を何らかの理由で行わず(慣れていないとか)、例の新潟県内の工事現場に差し掛かったとき停車するのでいつも通りニュートラルに落としたが、そこでギアを入れ忘れ、結果ウィリーしたのではないか、と個人的には考えている。
カブでのシフトダウン操作は前述の通り慣れを要することと、実際問題この世代のカブ50の3速の守備速度は広いのも「シフトダウンしなかった説」を補強する。

もちろん、3速からNに入れ、また1速で走り出すこと自体は、カブのようなリターン式の変速機構の利点でありこれも正しい乗り方ではある。しかし、状況によっては前輪を上げかねないこともある、ことを覚えておきたい。